正装の時の着物というと「留袖」や「振袖」が頭に浮かぶかも知れません。これらは結婚式や成人式などで着る着物ですから、事前準備も出来るので安心でしょう。問題は突然前触れもなくやってくる不祝儀です。家族・親族の不幸、悲しみの中でお通夜や葬儀・告別式・・・一般の会葬者は洋服でも、遺族は着物の喪服という習慣が残る地域はまだまだ多いと聞きます。いざという時のためにチェックしてみませんか?
【葬式には黒喪服で正礼装】
黒一色に染め抜きの五つ紋が正礼装となります。ただし家紋は、結婚後にあつらえた着物なら婚家の紋ですが、結婚前に作った着物なら実家の紋でOKと言われているので、喪服に付いている紋が他の親族と違っていても問題はありません。
【帯】
光沢があり華やかな印象がある帯は、たとえ黒一色でも喪服には使えません。黒以外の色が入った帯も駄目です。ただし、礼装の場合は原則「帯は袋帯」ですが、喪服の場合は名古屋帯でもOKと言われています。なぜでしょう?
袋帯で帯結びをすると、二重太鼓となります。これが「不幸が重なる」と結びつくのです。名古屋帯なら一重太鼓となりますから、袋帯よりも格は下がりますが名古屋帯でも不祝儀の際は大丈夫です。(袋帯が使えないという訳ではありません。ご注意下さい)
【帯揚げ・帯締め】
着物姿で見える小物、喪服の際は足袋や半衿以外は黒一色と言われています。ただし盛夏の時は、暑苦しさを避けて帯揚げ&帯締めは白を使うこともあるので、事前に周りの方と相談して下さい。
帯揚げの地模様は、流水や雲、桧垣、花なら菊や水蓮などが良いでしょう。帯締めは丸組か平組で、格のあるものを選んで下さい。
【草履とバッグ】
正装の際の草履やバッグは布製です。皮製品は「殺生」を連想させるために、使わない方が良いと言われていました。でも近年は合皮の品質もあがり、本皮と合皮の区別が難しくなってきたことから、華やかで品のあるものなら、素材についてはあまり問題されなくなってきています。
とは言っても、それは祝儀の席での場合。不祝儀の時は、昔からの習慣が続いていて、草履もバッグも布製が好まれているようです。
遺族は会葬者の方々の前に立つ場合も多いでしょう。その際、バッグは手にすることは少ないかも知れませんが、草履は違います。お辞儀をした時などは、下を向くと必ず草履は目に入りますから、注意して下さい。鼻緒に他の色が入っていたり、お洒落に見えるものは厳禁です。
【扇子】
結婚式の時などは新郎新婦が手に持つ祝儀の扇子があります。不祝儀の場合は、特に使うことはありませんが、聖なる世界と現世を区切るための結界を示すのが扇子と言われているので、用意しておきましょう。地も骨もすべてツヤのない黒が原則です。これを左胸の下、帯にさし込みます。向きは手に持つ方が帯の中、扇子の上側が帯から2~3㎝見える位置が良いでしょう。
【長襦袢】
祝儀・不祝儀どちらも正装の場合は白の長襦袢となります。半衿も真っ白ですが、不祝儀の時は、重ね衿は付けません。
半衿付けは慣れないと時間の掛るものですから、喪服の着物を着ると決めたなら、早目に準備しましょう。「衿が汚れているので、新しい半衿を購入したい」という場合なら、まずは着物屋さんに連絡して下さい。白の半衿は黄ばむ場合もあるので、在庫を抱えていない着物屋さんもあります。その際は問屋に取り寄せとなりますから、時間が必要なのです。
喪服を選ぶ際は、「黒色」に注意を払いましょう。
着物1枚1枚単独で見れば、喪服はどれも黒ですが、並べてみると真っ黒や、赤っぽい黒、白茶けた黒など色々と分かれます。葬儀で喪服の中に入ると、色あせた黒は悪目立ちしてしまう場合があるのです。親族一同、皆で並んだ時に恥ずかしい思いをしないためにも、喪服を選ぶ際は何枚か並べて、自分好みの黒を選んでみましょう。